· 

No弐-918 昭和を懐かしむ

 3連休はどちらかお出かけですか?やっとエアコンを使わない生活が戻ってきましたね。

 朝ウオーキングに行くと、運動会に向かう幼児の家族と何組かすれ違いました。

 男の子が「早く小学校でやりたいな!」ですって。思わず微笑んでしまいました。なんだか昭和に戻ったような気分になりました。

 そこで今日は、一昨日の朝日新聞「言葉季評」にあった歌人の穂村弘さんの「昭和は遠くなりにけり」を思い出したので、紹介します。

 

 穂村さんといえば、1年前のNo弐-558(10月6日)で「苦手、否定の表現」を紹介しました。「ちょっと苦手かも」、「個人の感想です」、「もにょる」、「なんだかなぁ」など逃げ道を確保した表現に注目しました。

 

★「昭和は遠くなりにけり あの『反則』最後に見たのは」(10月5日)

〇降る雪や明治は遠くなりにけり 中村草田男

・草田男の代表句。昭和6年の作。

・「明治は遠くなりにけり」という感慨には、大正を経て元号が再び変わった後の、昭和初期辺りがふさわしいようだ。

・そう、考えてみると、令和5年の現在からは昭和という時代がちょうど同じような距離感になる。

・新聞や雑誌に投稿される短歌にも、あの時代を振り返るものが増えている。

 

〇五カウントまで反則が許されるプロレスみたいだった昭和 たろりずむ

・最後に突然現れる昭和に驚きながら頷いた。

・あの頃は、未成年の飲酒や喫煙、芸能人の反射的な勢力との交際、各種のハラスメントといったさまざまな「反則」への意識が微妙に緩かった。

・大学に入った頃も、新歓コンパではビールの乾杯が普通だった。

・その場に教授がいても、もう大学生だから大人だよね、という暗黙の了解があった。

・時代の流れとともに罪の面がクローズアップされて「反則」の取り締まりは厳しくなっていった。

 

〇取り戻せ和式便所で朝刊を読んでいた時代の活力を たろりずむ

・今、トイレのドアを開けて、「和式便所」に出会うと、一瞬、ひるむ。そっと閉めて、撤退することも多い。

・それどころか、「朝刊」まで読む猛者がいたらしい。

・ぐらぐらと不安定な姿勢で活字を追うパワーは、個人を超えた「時代の活力」と呼んでいる。

 

〇箱の中ひしめくひよこ釣り上げることが遊びの世界から来た 原田

・お祭りの夜店ではカラフルに着色された「ひよこ」が売られていた。

〇襟巻きのミンクの硝子玉の目がとろりと冷えてゆく冬の夜 原彩子

・「襟巻き」には動物の顔が付いたのを憶えている。

・「反則」取り締まりの厳密化によって、現在はいずれも姿を消している。

・金魚すくいもスーパーボールすくいなどに置き換わりつつある。

 

〇立ちションをしている人を三人も見たら戻れぬ元の世界に 木村一雄

・「立ちション」も昭和的な「反則」だ。最後に見たのはいつだろう。

・ばらばらに「三人」も見かけるようになったら、もう異常事態。タイムスリップして昭和に来てしまった可能性があるというわけだ。

 

〇うっとりと煙草吸いたるいにしえの女優の口紅の色が知りたい 岡村 還

・モノクロームの画面には、紫煙とともに遥かな時の香りが漂っている。

・「いにしえの女優」は今はもう年老いて、あるいは亡くなっているかもしれない。

 

◎煙草

・昔の映画やドラマを見ていると、登場人物が煙草を吸いまくっていて、ぎょっとする。

・会社でも路上でも飛行機の中でさえも。

・昭和を遠く離れた現在の目で見直すと驚いてしまう。

 

◎「太陽にほえろ」

・もっとも憧れたのが萩原健一演じるマカロニ刑事と松田優作演じるジーパン刑事で、彼らの殉職シーンは衝撃を受けた。

・マカロニは立ちションの直後に刺される。

・ジーパンは撃たれて倒れた後、血まみれの手で煙草を咥(くわ)える。

・社会を守る刑事たちの伝説的な殉職シーンが立ちションと咥え煙草とは、今思えばいかにも昭和的。

・あれは時代が生んだヒーローのたちによる、死の直前の「反則」の輝きだったのか。

 

 昭和は遠くなってしまいましたが、なんだか懐かしくてホッとしてしまいました。