今日は、朝日新聞別冊「be」に連載されている飯間浩明さんの「街のB級言葉図鑑」からです。今回は9月2日、9日、16日、23日、30日の5回分からです。
① 「챕체(チャプチェ)」 読めなくても食欲をそそる(9月2日)
牛丼チェーン店のポスターに<챕체。>と書いてあったそうです。
・「三省堂国語辞典」第8版では<いためた肉・野菜などにはるさめを加えて作る料理>と説明している。
・ポスターには仮名が降られておらず、一般の通行人には韓国料理らしいことしか分からない。が、それがかえって関心を引き出す。
・牛丼店のポスターでいきなり<챕체>と書いてあると、韓国の街に迷い込んだ気がする。
・この不思議な感覚が食欲をそそる。
・よく見ると、左に<チャプチェコンボ牛めし>などと小さくメニューが書いてある。
②「槖駝(たくだ)」 あの動物の語源だった(9月9日)
調布の神代植物公園のシャクヤクの花の中に<槖駝の楽(たくだのたのしみ)>という名のピンクの花があるそうです。
・「大漢和辞典」を見ると、「槖」は袋のことらしい。筒状で上下を縛って使う。
・「槖駝」はまさしくラクダのこと。袋を背負うことからついた名前。
・「槖駝」が、後になまって「ラクダ(駱駝)」になった。ラクダの語源は「槖駝」。
・ラクダのように背の曲がった植木職人がいたことから、「槖駝」は植木職人のことも指す。
・<槖駝の楽(たくだのたのしみ)>は「植木職人の楽しみ」という意味の花だった。
・「槖」は「槖吾」と書いてツワブキとも読む。
③ 「●(●は電の異体字)」 最強のレアものらしい(9月16日)
商店街のアクセサリー店に〈時計●(●は電の異体字)池交換 ¥600〉と書いてあったそうです。
・「●」は「電」の異体字(字体が異なる字)。あまり見ない形。
・漢字の字体は、教科書で習う1種類だけではなく、戦前よく使われていた旧字体のほか、何通りにも書かれることは珍しくない。
・「電」の「あめかんむり」はテンテンをつないで縦棒にした字体もあるし、左右に点をひとつずつ打つだけの字体もある。「両」の形になっている場合もある。
・SNSでは「#電コレクション」と称して、街で見た「電」のいろいろな字体を集めている人たちがいる。
④「わんちゃん」 悪いイメージを避けた(9月23日)
ペットショップの看板に<新しい わんちゃん ねこちゃん>の看板が出ていたそうです。猫は「猫ちゃん」なのに、犬は「犬ちゃん」でないのはなぜだろう。
・国語辞典で「犬」を引くと、動物の名前のほか、「権力の犬」など手先の意味、スパイの意味が載っている。
・「犬侍」(腰抜け侍)や「犬死に」(無駄死に)もあり、イメージが悪い。
・「わんちゃん」は大正時代から例が現れる。
・「犬」を避けて、鳴き声を愛称にした。
・一方、「にゃんちゃん」と言わないのは、「猫ちゃん」で間に合うからだろう。
・2010年代になると、ネット上で犬のことを愛情込めて「イッヌ」と呼ぶようになる。
・猫を愛称で「ぬこ」とも呼ぶが、検索頻度では「イッヌ」と大幅に上回る。
⑤ 「御果子」 草かんむりはなくても(9月30日)
和菓子店の垂れ幕に<御果子>と書いてあったそうです。
・お菓子の「菓」という字は、元をただせば果実の「果」という字と同じだった。
・植物の果実の意味を強調して草かんむりをつけた。
・どちらも意味は「木の実」だが、おやつに食べるものなので、木の実以外のおやつも「果子(菓子)」というようになり、まんじゅうやだんごもその仲間に入った。
・滝沢馬琴は「果子」の表記を多く使っている。「南総里見八犬伝」には<蒸果子>という語も見える。「蒸し菓子」のことで、まんじゅうなどのこと。
・現在では、まんじゅうやもケーキもチョコレートも「菓子」と書く。
・今でも果物のことを「水菓子」と言う。古い「菓子」の意味が残る。
確かに「犬ちゃん」「にゃんちゃん」って言わないですよね?
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