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No弐-915 言葉のおもしろさ39

 今日は、朝日新聞別冊「be」に連載されている飯間浩明さんの「街のB級言葉図鑑」からです。今回は9月2日、9日、16日、23日、30日の5回分からです。

 

① 「챕체(チャプチェ)」 読めなくても食欲をそそる(9月2日)

牛丼チェーン店のポスターに<챕체。>と書いてあったそうです。

・「三省堂国語辞典」第8版では<いためた肉・野菜などにはるさめを加えて作る料理>と説明している。

・ポスターには仮名が降られておらず、一般の通行人には韓国料理らしいことしか分からない。が、それがかえって関心を引き出す。

・牛丼店のポスターでいきなり<챕체>と書いてあると、韓国の街に迷い込んだ気がする。

・この不思議な感覚が食欲をそそる。

・よく見ると、左に<チャプチェコンボ牛めし>などと小さくメニューが書いてある。

 

②「槖駝(たくだ)」 あの動物の語源だった(9月9日)

 調布の神代植物公園のシャクヤクの花の中に<槖駝の楽(たくだのたのしみ)>という名のピンクの花があるそうです。

・「大漢和辞典」を見ると、「槖」は袋のことらしい。筒状で上下を縛って使う。

・「槖駝」はまさしくラクダのこと。袋を背負うことからついた名前。

・「槖駝」が、後になまって「ラクダ(駱駝)」になった。ラクダの語源は「槖駝」。

・ラクダのように背の曲がった植木職人がいたことから、「槖駝」は植木職人のことも指す。

・<槖駝の楽(たくだのたのしみ)>は「植木職人の楽しみ」という意味の花だった。

・「槖」は「槖吾」と書いてツワブキとも読む。

 

③ 「●(●は電の異体字)」 最強のレアものらしい(9月16日)

商店街のアクセサリー店に〈時計●(●は電の異体字)池交換 ¥600〉と書いてあったそうです。

・「●」は「電」の異体字(字体が異なる字)。あまり見ない形。

・漢字の字体は、教科書で習う1種類だけではなく、戦前よく使われていた旧字体のほか、何通りにも書かれることは珍しくない。

・「電」の「あめかんむり」はテンテンをつないで縦棒にした字体もあるし、左右に点をひとつずつ打つだけの字体もある。「両」の形になっている場合もある。

・SNSでは「#電コレクション」と称して、街で見た「電」のいろいろな字体を集めている人たちがいる。

 

④「わんちゃん」 悪いイメージを避けた(9月23日)

 ペットショップの看板に<新しい わんちゃん ねこちゃん>の看板が出ていたそうです。猫は「猫ちゃん」なのに、犬は「犬ちゃん」でないのはなぜだろう。

・国語辞典で「犬」を引くと、動物の名前のほか、「権力の犬」など手先の意味、スパイの意味が載っている。

・「犬侍」(腰抜け侍)や「犬死に」(無駄死に)もあり、イメージが悪い。

・「わんちゃん」は大正時代から例が現れる。

・「犬」を避けて、鳴き声を愛称にした。

・一方、「にゃんちゃん」と言わないのは、「猫ちゃん」で間に合うからだろう。

・2010年代になると、ネット上で犬のことを愛情込めて「イッヌ」と呼ぶようになる。

・猫を愛称で「ぬこ」とも呼ぶが、検索頻度では「イッヌ」と大幅に上回る。

 

⑤ 「御果子」 草かんむりはなくても(9月30日)

 和菓子店の垂れ幕に<御果子>と書いてあったそうです。

・お菓子の「菓」という字は、元をただせば果実の「果」という字と同じだった。

・植物の果実の意味を強調して草かんむりをつけた。

・どちらも意味は「木の実」だが、おやつに食べるものなので、木の実以外のおやつも「果子(菓子)」というようになり、まんじゅうやだんごもその仲間に入った。

・滝沢馬琴は「果子」の表記を多く使っている。「南総里見八犬伝」には<蒸果子>という語も見える。「蒸し菓子」のことで、まんじゅうなどのこと。

・現在では、まんじゅうやもケーキもチョコレートも「菓子」と書く。

・今でも果物のことを「水菓子」と言う。古い「菓子」の意味が残る。 

 

 確かに「犬ちゃん」「にゃんちゃん」って言わないですよね?