今日は、朝日新聞終末別冊版「be」に連載している飯間浩明さんの「私のB級言葉図鑑」からです。今回は、3月4日から25日の4回分です。
①「タルだく」 「だく」は「たくさん」か(3月4日)
駅地下の売店で<タルだく 若鶏のチキン南蛮>という弁当を見かけたそうです。
・中にタルタルソースの大きめの容器が入っていて、チキン南蛮にたっぷりかけられて食べられる。それで「タルだく」。
・すぐに連想するのは「つゆだく」。汁をたっぷりかけた丼物。
・さらに汁が多いのは「つゆだくだく」
・「だくだく」は液体が多い様子を表す擬態語。
・落語の「だくだく」は血が吹き出る様子。汁の多さに応用したのが「つゆだく」。
・実は「つゆだく」の解釈はもう一つあり、昔から「つゆだくさん」という言い方があり、この略と考えた方がいいかもしれない。「タルだくさん」でも問題ではない。
・カレーソースを多くかけたカレーを「ルーだく」とも言うらしい。
②「ゾ」 変わってきた濁点の位置(3月11日)
都内のマンションも〈○○メゾン〉と名前の「ゾ」の濁点の位置が、右下にあったそうです。
・濁点は右上に打つ、と学校で習うが、活字やフォントでは、デザインの都合で移動することがある。
・朝日新聞の活字も「で」「ジ」などは濁点が内側に入り込んでいる。右上に打つと字形がいびつになるので、避けたのだろう。
・濁点を右上に打つと固定したのはわりあいと新しく、室町時代の頃のこと。
・鎌倉時代の辞書では、仮名の左側に点(声点・しょうてん)が打たれている。
発音・アクセントを表すためのもので、清音は「・」。濁音は「・・」で示される。
・現在の濁点は、「・・」が右上に移動したもの。
③「呪祓」 難解になる漫画のことば(3月18日)
人気漫画「呪術廻戦」の登場人物のフィギュアを販売する中古グッズ店のポスターに<呪祓ノ術-真人->書いてあったそうです。
・フィギュアの箱にルビが振ってあり、「呪祓ノ術」は「じゅふつのわざ」。
・「祓」は「祓(はら)う」、音読みは「ふつ」。
・「呪祓」は新しく作った言葉らしい。
・最近の漫画には、普段目にしない難解な漢字がよく使われる。
・「鬼滅の刃」では、「竈門禰豆子(かまどねずこ)」、「霹靂一閃(へきれきいっせん)」(呼吸の型)などの漢字が出て来る。書けと言われたら困るかも。
・見慣れない感じは物語に非日常的な雰囲気を与える。
・国語辞典には「お祓い」の意味の「修祓(しゅうばつ・しゅうふつ)」という語も載っている。「ばつ」は特殊な音読み。
④「豚かば焼き」 わりと昔からあったらしい(3月25日)
牛丼チェーン店のメニューに<豚(とん)かば焼き丼>があったそうです。
・豚肉を蒸してたれにつけ、炭火で焼いたものだが、それでも「かば焼き」と言うのか?
・「かば(蒲)焼き」の語源は、<もとウナギを縦に串刺にして丸焼きにした形が蒲(がま)の穂に似ているから>(広辞苑)。
・後に、ウナギを開いて串を刺したものもそう呼んだ。
・11種の国語辞典を調べると、かば焼きに使う肉の筆頭はウナギ。
・ほかに、ハモ、アナゴ、ドジョウ、サンマ、イワシなど。
・豚肉を挙げる辞書はないが、豚のかば焼きは昔からあったらしい。
・阿川弘之の小説「ぽんこつ」(1966)では、豚肉を載せたお重のごはんが<豚の蒲焼>として出てくる。
・明治時代に熱烈な「推し記事」には、<豚肉の蒲焼などと来ては鰻などの到底及ぶ所ではない>(「実業の世界」1910年11月1日号)とある。
・ウナギが絶滅危惧種になった今、ウツボやナマズのかば焼きも現れた。かば焼きも多様化の時代。
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