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No弐-640 言葉のおもしろさ30 

 今日は、朝日新聞終末別冊版「be」に連載している飯間浩明さんの「私のB級言葉図鑑」からです。毎月紹介して、もう30回になるんですね。

 私もたまに電車に乗ると中刷り広告を見るのが楽しみでしたが、最近は少なくなって淋しいです。

 教材は街の中に転がっているという信念のもと、キョロキョロしながら歩くのですが、飯間さんのような発見はなかなかできません。

 今回は、12月3日から12月24日の4回分です。

 

①「どぶ漬け」 「ぬかみそ漬け」も指すが(12月3日)

 日本橋の天ぷら屋さんで<揚げたてのてんぷらを どぶ漬けのお酒と供に楽しめる>と書いてあったそうです。

・「どぶ漬け」って何?辞典には<しるけの多いぬかみそづけ>と説明している。

・作家の田辺聖子は大阪弁で「どぼづけ」と言い、<どぶづけ、という女もいる>と書いている。

・インターネットを検索すると、露天などでジュースを冷やすのに使う水槽のことを「どぶ漬け」と言う例が多くある。

・この店でも、カウンター内に水槽があって、お酒を入れて冷やしている。

・「どぶ漬け」は、このほか、とかした亜鉛に鋼材を浸すめっきのことなども指す。

・要するに、どぶんと漬ける(浸す)ことを広く「どぶ漬け」と言う。

 

②「おろう」 「お」がつくかが問題だ(12月10日)

 浅草寺の本堂で、<おろう 一本 百円>書いてあり、ろうそくを売っていたそうです。

・「おろう」とは、よく使われることばなのか疑問に思い、大きな辞書を数冊見たが、なかった。

・大正時代の中勘助「銀の匙(さじ)」では、寺に賽銭を上げる場面で<お蠟をどうぞ>(ろうそくを供えてください)というせりふがある。

 

③「ゔ」 パソコンでも出て来る文字(12月17日)

 銀座のフランス料理店で<とわゔぃさーじゅ>と店名が書いてあったそうです。

・フランス語で「3つの顔」の意味。

・「とわ」は「アン・ドゥー・トロワ」の「トロワ」と同じ。

・珍しいのは「ゔ」の表記。カタカナの「ヴ」はよく見るが、ひらがなの「う」に濁点を打つのはあまり見ない貴重な例。

・今のパソコンならちゃんと出てくる。ユニコードにも入っている。

・「ゔ」はいつ使うかと言うと、普通は外来語の「ヴ」をわざとひらがなで書く時。

・高校生がふざけて「ラヴ」を「らゔ」と書いた例が手元にある。

・尾崎紅葉は「二人(にじん)女房」の中で、葉巻の「ハヴァナ」を「はゔあな」と表記している。

・「ヴ」は幕末からある文字だが、「ゔ」もけっこう歴史がある。

・現在、漫画で「あ」に濁点を打って、濁った叫び声などを表すことがある。

・「ゔ」もまた、うめき声などにも使われる。従来とは別の新しい使い方が現れた。

 

④「ヂーゼル」 「ヂ」はいつ頃の表記?(12月24日)

 発電機卸会社の看板に<〇〇ヂーセル工業>と書いてあったそうです。

・「ヂーゼル」はディーゼルエンジン。「ヂ」の表記が昭和風。

・昔は「ディ」を「ヂ」と書くことがよくあった。

・国立国会図書館が所蔵する200万以上に資料データを見ると、昭和初期は「ディ(デイ)ーゼル」が多いが、太平洋戦争直前になると「ヂーゼル」が優勢になる。

・戦後も「日野ヂーゼル工業」(現・日野自動車)などの社名もあったが、今はなじみがなくなった。

・「ラジオ」は、戦前はほぼ「ラヂオ」としか書かなかったが、戦時中に「ラジオ」が優勢になっている。

・「ビルヂング」という表記は、大正時代に一時期優勢だったが、大正末から昭和時代には「ビルデイング」が優勢になった。

 

 「どぶ」は「雨水・汚水などが流れるみぞ」のことですが、最近あまり聞かなくなりましたね。「おビール」「おコーヒー」など外来語には本来NGだそうです。

 タイヤのメーカーは「ブリヂストン」でした。「ドッヂボール」ではなくて、「ドッジボール」の表記を使います。

 「あ゛」の濁った叫び声、「ゔ」の呻き声に挑戦してますが、皆さんできますか?