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No弐-626 知らんけどは知らんけど

 先週12月10日(土)の朝日新聞朝刊「耕論」は、「知ってる?知らんけど」でした。

 「知らんけど」は、今年の新語・流行語大賞の候補30語にノミネートされた言葉でした。

 「文末に付けた断定を避け、責任を回避する言い方」で「関西の人が使っていたが関東でも目立つようになった言葉」でした。皆さんは使ったことがありますか?

 

★方言研究者の田中ゆかり教授(日本大学・言語学)の話

・「知らんけど」は、東京の学生たちも使っている。

・「方言コスプレ」の一種であり、LINEスタンプで使うようなふるまいと受け止めている。

・現代は、「何を言うか」より「どう言うか」に迷う時代。

・正面切って正論を述べてしまった気恥ずかしさを打ち消そうと、最後に「わからないですけど」と共通語で言うと、ものすごく無責任に聞こえる。

・関西弁由来の「知らんけど」は無責任さを装うイメージをまとえるので便利かもしれない。

・関西以外の人は「知らんけど」を「関西方言」としてではなく、LINEスタンプのような意識で使っているのではないか。

・1970年代の終わりに「な~んちゃって」という言葉が流行した。

 直前のシリアスな出来事や正論を無効化する働きにおいて、「知らんけど」との共通点が見いだされる。

・「な~んちゃって」は深夜ラジオ、「知らんけど」はSNSで広がる。時代の変化が反映されている。

 

★関西出身の岸田奈美さん(作家)の話

・生まれも育ちも関西の私にとって、「知らんけど」は特別な言葉ではなく、日常の会話の中で、息を吐くように自然と出てくる言葉。

・「他者の目」になった時に、恥ずかしさを打ち消したり、他者とのゆらぎを元に戻そうとしたりする言葉。

・「知らんけど」は相手を落とすために使うのではなく、自分へのツッコミであり、優しさの象徴。

・関西の日常会話に出て来る「知らんけど」は、「しゃべり過ぎちゃったかな」とか「偉そうなこと言っちゃったな」とか感じた時に、ニュートラルな状態に戻してくれる言葉。

 

★哲学研究者の永井玲衣さん(立教大学兼任講師)の話

・「知らんけど」に限らず、逃げられる言葉が好きな人が多いことは常々感じていた。

・「~みたいな」や「個人的には」という表現。

・私たちはあまりに、人と集まって考えることに傷つきすぎているのではないか。

・「知らんけど」は、自分の言葉すら「どうでもいい」と手放してしまっている。

・相手に踏み込んじゃいけない、間違っちゃいけないと思わせる社会では、「知らんけど」を使わざるを得ない。それが、とてもさみしい。

 

 知らないなら言うな!と思うんですが、知らんけど。なーんちゃって。