朝日新聞終末別冊版「be」に連載している飯間浩明さんの「私のB級言葉図鑑」からです。
今回は、10月1日から10月29日の5回分です。
①「おっこん」 「お好み焼き」の新方言?(10月1日)
銀座の飲食店の看板に<新広島風 塩おっこん>と書いてあったそうです。
・宮中では、お酒のことを「おっこん」と言うが、この「おっこん」はお好み焼きの略。
・広島関係者のウェブサイトでは「最近、地元ではお好み焼きを『おっこん』と言う」と書いている人が複数いる。元は幼児語だそうだ。
・お好み焼きは、広島に人はわざわざ「広島風」とは言わない代わり、よそのお好み焼きと区別するために「おっこん」を使うのだと説明するサイトがある。
・「おっこん」も新しく生まれる方言のひとつかもしれない。
②「解除」 コロナ禍で新たな意味合い(10月8日)
石けんの広告に<手洗いに「解除」はありません>と書いてあったそうです。
・「解除」と言うと、緊急事態宣言などの解除を連想する。コロナ禍で「解除」に新たな意味合いが加わった。
・「密」は「連絡を密にする」「毛糸を密に編む」以外に、今では混雑した状況を「密だね」と表現する。
・「リモート」も遠隔の意味だけでなく、「今日はリモートだ」など、遠隔での仕事や打ち合わせの意味が一般化した。
③「ハピろー!」 あの文豪の作品にも登場?(10月15日)
街角のコンビニで<みんなで、ハピろー!>というコピーが貼ってあったそうです。
・「ハッピー・ローソン・プロジェクト」の略。
・「ろー」という語尾は「なろう」などの呼びかけの形。
・「ハピる」と言う動詞を作って、「一緒にハッピーになろう」と呼びかけたわけだ。
・遠藤周作の小説「スキャンダル」(1986)にこれと似た言葉が使われている。
・ミツと言う中学生がハッピーの時に使う「ハッピる」という動詞を主人公に教えるが、彼女自身は幸福には描かれないので、「ハッピる」には苦い響きがある。
・「ハッピる」から三十数年を経て「ハピろー」の登場。遠藤周作の新しさに改めて感嘆。
・「ハッピる」ではなく、「ハピる」と「ッ」を省くところに今っぽさを感じる。
・「パニック」が「パニクる」になるように「ッ」が省かれることは多い。
④「小腹においしい」 おなかのどの部分を指す?(10月22日)
スープの自動販売機に<小腹においしい>と書いてあったそうです。
・「小腹」は「小腹が空く」からできた単語。少しおなかがすくこと。
・「小」は「少し」の意味で「空く」に掛かる。
・「小耳にはさむ」「小脇に抱える」。「小」は「ちょっと」の意味。
・2010年代に「小腹」を「ちょっとした空腹」の意味で使う例が増えた。
<小腹においしい><小腹におすすめ>
・昔は、「小腹」は「小腹が立つ」(少し立腹する)、「小腹が痛む」(少し腹が痛む)などのいろんな言い方があった。
⑤「生そば」 「き」「なま」で別の意味に(10月29日)
量販店で売られているおそばに<振り粉 生(なま)そば つゆ付三人前>と書いてあったそうです。「なまそば」なのか?「きそば」なのか?
・主要な国語辞典を引くと、出てくるのは「きそば」。<純粋なそば粉を用い、ほんの少量のつなぎを加えただけのそば>
・この商品の「なまそば」の原材料欄には、小麦粉、そば粉、食塩などがこの順番で記されている。そば粉の方が少ないので、少なくとも「きそば」ではない。
・「乾麺」に対して「なま」と言っている。
・「きそば」は江戸時代からあったが、製造・輸送技術の発達で、打ったそばを遠隔地で生や半なまの状態で売ることできるようになって現れたのが「なまそば」だった。
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