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No弐-557 暴力を減らす力

  今日の朝日新聞朝刊に「暴力減らす力 人の本性に」という見出しがあり、目に留まりました。実験心理学者のスティーブン・ピンカー教授(米ハーバード大学)の話が印象に残ったので紹介します。

 

★「現代は最も平和な時代」と言えるか?

・人類史を通してみると、暴力は減少傾向にある。(データが示す事実)

・数値が上下を繰り返しながら、長期でみると暴力は減ってきた。

・世界全体の戦死者は減ってきた。

・殺人の発生率も時代とともに低下してきた。

 

・2022年は、ウクライナ侵攻の影響で21年よりは悪化するだろうが、核兵器の脅威が現在、冷戦期よりも高まっているという観測には懐疑的。

・この予測は77年前に長崎で原爆が使われてから、常に裏切られてきたし、核兵器の数も1980年代の6分の1に減少している。

 

★人類はどうやって暴力を減らしてきたか?

・多くの暴力は、自分の命が奪われるかもしれないという恐怖から生まれる。

①対立する人や勢力のほかに、統治機関や裁判制度のような第三勢力があれば、「やられる前にやる」という誘惑を減らすことができる。国際社会だと国際連合がそれにあたる。

 

②民主主義のシステムも戦争を減らす。軍に選挙などを通して動員された人たちがいれば、指導者が国をばかげた戦争に向かわせないようにする力がある。

 

③商取引も戦争のリスクを軽減する。品物を盗むよりも買う方が安上がりならば、奪うために他国を責めたりしない。

 

④ノーベル平和賞を受けた欧州連合(EU)では、加盟国は互いに攻め込む要因がない。

 

★暴力を減らすシステムを生み出した「合理性」とは何か?

・合理性とは目標を達成するために知識を用いること。

・人類は、地球を支配し、個体数を増やし、月にも到達したのは全て人の合理性がもたらした結果。

・大学や政府といった組織を作って知識を蓄えたり、より高次の合理性を得るための行動規範を作ったりしてきた。

・個人の合理性には限界があり、完全にはなりえない。

・アイデアの弱点を特定し、批判する力を集団が持たなければ、合理性は高められないので、知識を共有する必要がある。

・研究者なら、誰もがアクセスできるよう、論文で発表することが求められる。

 

★合理性を追求すれば、暴力はなくせるか?

・人には本性があり、生まれながらにして復讐心や支配願望、サディズムといった暴力的側面を持っているから、暴力は減らすことができても、ゼロにはできない。

・一方で、人の本性は共感する力や、暴力を解決すべき問題としてとらえる合理性も持っている。

 

★「善なる天使たち」

・「善なる天使たち」という言葉は、リンカーン大統領の演説に由来する。

・この呼び名は美しく、心理学の深遠な洞察だと考えているものを的確に表現している。

・人の本性の中にいる「善なる天使たち」は、組織や規範から力をもらいながら、暴力を克服してきた。

・人の本性はさまざまな部分からできていて、合理性や共感、自制心などの「天使たち」が凶悪な側面を押さえつけることで、人類は歴史を良い方向に変えていくことができると考えている。

 

 合理性や共感、自制心などを小さい頃から少しでも育んでいくことが大切だと感じました。