朝日新聞終末別冊版「be」に連載している飯間浩明さんの「私のB級言葉図鑑」からです。今回は、7月30日から8月6、27日の3回分です。(8月13日、20日休刊のため)
①「しか~難しい」 否定形だと断定しすぎる(7月30日)
駅に貼られたポスター<エレベーターでしか移動が難しい方がいます>と書いてあったそうです。
・「しか」の後ろは「ない」で否定するところです。
・「三省堂国語辞典」では、<半分しかない><七百円しかかからない>など、基本的には「しか~ない」の形が挙げられています。
・「しか」の後ろが「ない」以外の例はないのか。文学作品を探すと、少しはありました。
<食堂からしか買いにくい>(宮本百合子)
<微笑としか形容し難い表情>(宇野千代)
・今回のポスターの場合、否定形にすると「エレベーターでしか移動できない」となり、断定しすぎです。
「エレベーター以外での移動が難しい」だと、字数が増えます。
担当者はきっと苦慮したのでしょう。
②「●〈●は「高」の天地が逆〉い店」 天地をひっくり返す反語法(8月6日)
飲食店用の道具などを売る店の多い商店街の看板に〈店舗用エアコンの一番●(●は「高」の天地が逆)い店〉という看板があったそうです。
・「高い店」の反対で、「やすい店」と読むのでしょう。
・単に「安い店」と書くよりも印象が強まります。
・天地をひっくり返す反語法(?)には昔からなじみがあります。
<高田馬場で一番/●(●は「まずい」の天地が逆)店>という看板がありました。
横書きの垂れ幕に<日本一●(●は「まずい」の天地が逆)佃煮でごめん>と書いた店も見ました。
・ひっくり返さず<宮内庁御用なし/まずい魚>と堂々と書いた例もあります。
これだと本当にまずいい意味になるのでは・・・。いや、これも「本当にまずいかどうか、食べてみなさい」ということでしょう。やはり一種の反語法なのです。
③トゥンカロン 「カバン語」という略し方(8月27日)
「トゥンカロン」という韓国のお菓子が人気なんだそうです。
・話題になったのは2020年頃から。マカロンの一種です。
・マカロンは丸くて色とりどりの一口サイズのお菓子ですね。トゥンカロンはこれにクリームなどをたっぷり挟み。分厚いのが特徴です。
・「トゥンカロン」は韓国語で「太ったマカロン」を意味します。
・「太っている」を表す「トゥントゥンハダ」の前半と、「マカロン」の後半を合わせた言葉です。
・2つの語の前半と後半を組み合わせた略語を「カバン語」と言います。
・ちょうどカバンのふたを両側からパカッと合わせるようにして作ることばだからです。
・英語などではカバン語が多く見られます。韓国語もそうなのかな。
・日本語では、「ジモドル」(地元+アイドル)がそうですが、例は多くありません。
・日本語で「太ったマカロン」を略すと、おそらく「太マカ」にあるでしょう。
・日本語はどうやら、カバン語の形は作りにくいのです。
コメントをお書きください