朝日新聞終末別冊版「be」に連載している飯間浩明さんの「私のB級言葉図鑑」からです。今回は今月6月4日から6月25日の4回分です。
①「鮮馬」 店ではよく使うのかな?(6月4日)
居酒屋の看板のメニューに<熊本 鮮馬赤身刺し>と書いてあったそうです。
・「鮮魚」ではなくて、新鮮な馬肉だから「鮮馬」。
・「三省堂国語辞典」にはない言葉でした。他の辞書にも「戦馬」(戦争に使う馬)はあっても「鮮馬」はありません。
・ネットで調べると、多少出てきます。<熊本県直送鮮馬><鮮馬料理専門店>など。
・ことばは短いほど勝手がよくなります。
・「新鮮な馬肉」ではなく「鮮馬」と二字熟語にすることで「鮮馬握り」「鮮馬ステーキ」のようにメニューにも使えます。専門店にとっては便利なはずです。
②「させていただく」 へりくだっても威厳あり(6月11日)
原宿の洋服店に<キャップの付いていないドリンクや食べ物の持ち込みはお断りしています。見かけたらお声をかけさせて頂きます>という注意書きがあったそうです。
・食べ歩きをする客への忠告です。「見つけたら注意します」という意味を<お声をかけさせて頂きます>と婉曲に表現しています。角の立たない、うまい表現です。
・「〇〇させていただく」は、へりくだった気持ちを表す一方、断固として迷わない感じもあります。
・注意書きに使うと、謙虚さや威厳を備えた絶妙な表現になります。
・注意や警告などの内容を伝える文章はきつくなりがちです。そこに、あえてへりくだった表現を使うことで、「従わないとまずい」と相手に思わせる効果が出るのです。
③「お出口・お入口」 なじみ度で丁寧さに違い(6月18日)
老舗の百貨店の出入り口に、<お出口専用/お入口専用>と書いてあったそうです。
・<お>をつけやすいもの、つけにくいものがあります。
・「金(かね)」「客」「酒」などは「お」をつけるのがむしろ普通です。
・「茶」も「お茶」が普通ですが、「お紅茶」はかなり丁寧な印象があります。
・<お入口>は非常に丁寧に感じられます。<お出口>は非常に丁寧とまでは言えません。これは、なじみ度による違いです。
・電車のアナウンスで「お出口は左側です」などと使われます。「お出口」は日常語です。繰り返し使われるうち、丁寧を表す効果が薄れてしまったのです。
④「●(●は傷の横棒が1本なく易)」 奇妙な字だが字書にある(6月25日)
東京の中心地にある交番(1980年代に完成)の交通事故の状況を知らせる表示板の「負傷」の「傷」の字の横の棒が1本足りなかったそうです。
・漢字テストではバツにされてしまいますが、漢字のいろいろな字体(異字体)を集めた字書には俗な字体として載っています。
・「傷」に限らず、「陽」「蕩(トウ)」なども、横棒が略されたり、さらに簡略化されたりすることがあります。
・看板などの文字のデジタル化が進んだ現在、このような文字を書かれることは少なくなりました。
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