· 

No弍-371  平手打ちと忠臣蔵

 ウィル・スミスの平手打ちのシーンが連日テレビで流れています。毎日このシーンを見させられるとうんざりしてきますね。皆さんは、この行為どう思いますか? 

 私は、先日の朝日新聞朝刊(3月31日)の「天声人語」に共感しました。忠臣蔵と似ているという発想に刺激をもらいました。今日はこれを抜粋してみます。

 

 米アカデミー賞の式典で、俳優のウィル・スミスさんが、賞の贈呈者を平手打ちした。

 スミスさんの妻の外見をあざける発言をしたことへの怒りからだ。

 賞を主催する団体は暴力行為を重く見て、調査のうえ法に基づく対応を検討するという。

 

 さて、この件で、日本でよく知られるあの話を連想しないだろうか。忠臣蔵である。

 ことの始まりは江戸城松の廊下、浅野内匠頭の吉良上野介に切り付けた事件にある。

 嫌がらせに耐えかねたためと言われる。

 

 内匠頭は切腹を命じられ、残された家臣たちが上野介の復讐を誓う。

 多くの物語で彼らが赤穂浪士は英雄的に描かれるが、それにはずっと違和感があった。

 そもそも主君の行為を弁護できるのか。

 

 浪士らは上野介におとがめがなかったことを問題にした。

 しかし彼は無抵抗だったのだから、この理屈は通らない。

 理不尽な扱いを受けていたのなら、内匠頭には暴力を用いない方法で世に訴えて欲しかった。

 腕力に訴えたスミスさんも同じである。

 

 「その場で逮捕されてもおかしくない行為だった」との批判も米国で出ている。

 残念でならないのは、暴力の陰で贈呈者の発言のひどさがかすんでしまったことだ。

 短髪をからかわれたスミスさんの妻は、脱毛症を公表していたのだ。

 

 米映画界はいま、積年のうみを出す過程にある。

 性暴力が告発され、白人に偏っていた受賞も是正されつつある。

 外見を侮辱した今回の発言も、根深いものを感じる。

 きちんと批判する機会を平手打ちが奪った。

 

 文末の「きちんと批判する機会を平手打ちが奪った」が読者に強烈な印象を残しませんか?文豪道場で使えそうです。さすが「天声人語」でした。