· 

No弐-310  言葉のおもしろさ18

 今年も朝日新聞終末別冊版「be」に連載している飯間浩明さんの「私のB級言葉図鑑」を紹介していきたいと思います。今回は1月8日から1月29日の4回分です。

①「おうち」 和語に癒しを求めて(1月8日)

 楽器店のポスターに<おうち時間を楽しむグッズをプレゼント>という懸賞のお知らせがあったそうです。

・「おうち」はごく普通の言葉だが、21世紀に入ったころから「おうち○○」の形で、自宅で楽しむものごとを表すようになった。「おうちカフェ」「おうちごはん」「おうちプリント」など。

・従来なら「家庭菜園」「自宅勤務」などの漢語を使った。

・漢語では堅いので、軟らかな和語の「おうち」が好まれるようになったのだろう。

・コロナ禍で「おうち○○」が多く使われるようになった。

・「おうち時間」「おうちカレー」「おうちエステ」など「おうち」は増殖している。

・自宅に関することならどんな言葉にもつけられて便利。

 

②「ひ弱ってる」 学生運動とは関係なく(1月15日)

 渋谷で、ホストクラブの宣伝車のホストの写真に<ひ弱ってる奴いる?>と書いてあったそうです。

・<ひ弱ってる>は当て字。酒を飲んで酔っている意味と「ひよってる」(びびってる、おじけづいてる)の意味も掛けている。

・学生運動が盛んだった1960年代、態度をあいまいにして、日和見(ひよりみ)をすることを「ひよる」と言った。デモをサボると「ひよるな」と攻撃された。

・90年代後半、「ひよる」の新しい意味が広まった。日和見をする態度や「ひ弱」との類似から「びびる」の意味を使う人が増えた。

・「ひよる」の用法をはっきり認識したのは2010年代。

 

③「マスク入れ」 何と言う名前に落ち着くか(1月22日)

 食事に行くとお店で<マスク入れ><マスク包み>という紙をくれるが、その書き方が何種類もあるというのです。

・「マスク置き」マスクを上において折り畳む。

・「マスクファイル」ビジネスっぽいイメージ。

・「マスクケース」ネット通販サイトではこの言い方が多い印象。

・新しい道具が広まる時期、それを指す名前に時々混乱が見られる。

 

④「右扉常閉」 漢字は融通が利かない?(1月29日)

 ビルのガラス扉に<右扉常閉>という注意書きがあったそうです。

・一般にはこういう場合、「締切」(「閉切」とも)と言うこと多い。

・インターネットで検索すると、防火扉の種類で「常時閉鎖型」を略して「常閉」と言う。

・中国の古典の「墨子」の書物の中に<門常閉>(門は常に閉(と)ず)という部分がある。

・日常では「常閉」がほとんど使われないのは、漢字は案外融通が利かない。

・常に勤めるから「常勤」、常に勝つから「常勝」だが、常に読む本を「常読の本」とは言わない。