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No弐-142  言葉のおもしろさ12

  久々にオリンピックから離れます。朝日新聞終末別冊版「be」に連載している飯間浩明さんの「私のB級言葉図鑑」からです。今回は7月3日から7月24日の4回分です。

 

①「苺一衣」愛され、もじられることば(7月3日)

 ショーウインドウの和装小物のポスターに「苺一衣(いちごひとえ)」と書かれてあったそうです。

・イチゴ柄のポーチや財布などの名前らしい。「一期一会」と掛けているんですね。

・デイサービス施設で「一期一笑」と言うのを目にしました。

・美術関係では「一期一絵」というネーミングも。

・元は茶道の言葉でした。<茶の湯の会は一生に一度のものと心得て、悔いのないようにおこなうべきであるという教え>(三省堂国語辞典)。一期(一生)に1回だけ会う気持ちです。

・私たちは、元の意味をそのままでは使っていないと思う。

 

②「一と口」わりと自由だった送り仮名(7月10日)

 台東区柳橋近くで酒のさかなの<一と口あなご>が売られているそうです。

・「ひとくち」なら「『と』の文字はいらないのでは。『一口』でしょう」

・夏目漱石の「吾輩は猫である」を見ると、<一と口に云えば>と出てきます。

・「一月(ひとつき)」を「一と月」と書いた個所もあります。

・送り仮名の付け方は、昔から自由でした。

・「一月(ひとつき)」を「いちがつ」と読まれて困る場合は「一と月」と仮名を添えました。

・戦後になると、表記の整理・統一が次第に進み、送り仮名の自由度は小さくなりました。

・私が困るのは「開く」でス。「ひらく」よも「あく」とも読めるので、前者は「開らく」と書いたい気もします。残念ですが、これもテストでは認められません。

 

③「香呂」当て字として定着するか(7月17日)

 お寺の入り口に<お線香は香呂の真ん中の炭でお点けください>と書いてあったそうです。「香炉」は「香呂」とも書くのでしょうか?

・ネットで調べると兵庫県姫路市の香呂駅が出てきます。この地名のためパソコンで「こうろ」と打つと「香呂」が出ます。それで変換ミスをした可能性があります。

・仏具販売のサイトでも「香呂」の例が多く見つかります。<机上香炉(香呂)>などと使われています。「香炉」を求める客が間違って入力しても大丈夫なように「香呂」も併記してあるのでしょう。

 

④「南柯眺臺」どうやらダジャレらしい(7月24日)

先数百年の歴史を誇る鳥越神社(台東区)の社務所の入り口に<南柯眺臺>書かれた立派な額があるそうです。署名を見ると篆刻家の石井雙石が97歳の時に書いた額です。

・この額はダジャレらしいです。<南柯眺臺>は「なんかちょうだい」。そう物をくれと言っているのです。

・「南柯」は南の枝で、はかない夢のことを指します。「眺臺(眺台)」は景色を眺める台でしょう。つまり「夢を眺める台」と言う意味にも取れます。

・漢字はもっともらしいのに、発音するとふざけた意味になる例はペンネームによくあります。「二葉亭四迷」が「くたばってしめえ」と読めるのは有名。

・現代でも「南陀桜綾繁(なんだろうあやしげ)」さんというライター兼編集者がいます。