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No弐-65  言葉のおもしろさ10  

朝日新聞終末別冊版「be」に連載している飯間浩明さんの「私のB級言葉図鑑」からです。今回は5月の4回分です。(5月8日はお休み)

 

①5月1日「ヘラ鉸り」糸偏か、金偏か、が問題だ

 「ヘラ絞り」という技術をご存知でしたか?

・回転する金属板にへらを押し当てて変形させ、鍋や洗面器といった製品を作るものです。

・金属鍋の底には、よく、細かい無数の波紋がついています。あれはへら絞りで作ったから。 街の中で<ヘラ鉸り>という看板を見たそうです。「しぼり」が「絞り」ではなく、「鉸り」になっていたそうです。

 実は書き間違えではなく、漢字は、実物に合わせて偏を変えることがあるそうです。

・「板金」は、金属加工では「鈑金」と金偏で書きます。

・「おわん」は、木は「椀」、陶磁器は「碗」、金属は「鋺」と書きます。

・「鉸(こう)」は中国では「はさみ」の意味。

 

②5月15日「しの上に点」ふだん書く人は少ないかも

 <歩道へハミ出し(しの上に点)て 駐車しないこと>という手書き看板があったそうです。

・点のある「し」は江戸文字の「勘亭流」などわずかです。

・仮名の「し」「シ」は共に漢字の「之」が元なので、点を打つ理由はあります。

・カタカナは点が残っていますが、ひらがなは続けて書くうちに、点が下につながりました。

・点の有無についてのきまりはなく、どちらで書いてもかまいません。

・街には「し」に点を打つのが珍しくない展示物があります。すし店の看板です。チェーン店の「すし」の文字も、注意してみると、点を打ったものが多くあります。なるほど。

③5月22日「チ」チーズでもなくチキンでもなく

 広島市のカフェのメニューに<ナマチ>とあったそうです。

・「生チップス」つまり、生のジャガイモの風味があるポテトチップスです。

・外来語の略語は「リモコン」のように4文字が一般的ですが、「ポテトチップス」は「ポテチッ」ではなく「ポテチ」と3文字です。

・各地で販売されているチップスを見ると、さまざまな「チ」があります。

 お米から作った「しろめチ」(新潟)。サツマイモの「いもっチ」(静岡)。しいたけの「タケチ」(三重)。サバを使った「サバチ」(香川)

・ここまで来ると、「チ」は省略語というより、「チップス」を表す記号(接尾語)です。

 

④5月29日「旬味」「旬」の広がりに注目する

 金沢市の料理店のメニューに、<旬味 酒肴>の文字を見たそうです。

・「旬味(しゅんみ)」は、辞書にないことば。最近よく目にするもののひとつ。

・今もまだ「旬鮮」を載せる辞書は増えませんが、「旬」の使用が広がっていることは注目すべきです。

 「旬菜」、「旬魚」、「旬房」(旬の料理を出す店)など。

 ファッションでは「旬顔」(旬な様子)、「最旬」など・

・従来、10日間の意味の「旬(じゅん)」を使った熟語はおなじみでした。

 「上旬」「下旬」「旬刊」など

 ところが、新鮮さを競う時代になったため、「旬(しゅん)」を使った熟語が増えてきた、ということなのでしょう。